普段より食べ過ぎてしまった後、突然眠気が襲ってきて、もう眠くて仕方がなくなってしまったという経験はありませんか?今日は、食後に眠くなるメカニズムとその対策法をお話しします。
まず、私たちが食べ物を食べると、胃はガストリンという消化液の分泌作用を促すホルモンを作り出します。食べ物が小腸に入ると、細胞はさらに血流調整などの身体機能に信号を送るホルモン(コレシストキニンなど)を分泌します。
このことがいったい眠気とどう関係するのでしょうか?体内の消化活動が活発になると、新しく吸収した栄養分を運ぶために大量の血液が胃と消化器官へ集中します。すると、身体全体の血液循環が少なくなり、そのため、私たちは眠くなったり気だるさを感じたりするようになるのです。
また、食べる量だけでなく、「何を食べるか」というのも眠気に見舞われる原因の一つです。長年にわたる研究からも、栄養が偏っている食事(特に炭水化物が豊富に含まれるパスタ・麺類・サンドウィッチなど)は眠気を誘発させる一方で、栄養バランスが整っていて十分なたんぱく質を含む食事は眠くなりにくいことが判っています。それでは、なぜ炭水化物を多く含む食事は眠気を誘発させるのでしょうか?
炭水化物を多く含む食事は血糖値を急激に上昇させる高GI食であり、同時に血中のブドウ糖を細胞内へ取り込むインスリンがすい臓から大量に放出されます。インスリンの血中濃度が上がると、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンがより多く脳へ運ばれます。このトリプトファンは、人を眠くさせたり、落ち着かせる効果のある神経伝達物質「セロトニン」の前駆物質として知れられています。(出典1)
しかし、だからと言ってトリプトファンを豊富に含む食品(鶏肉、魚、肉、カッテージチーズ、豆腐、パンプキンシード、バナナなど)が直接的に眠気を誘発するという訳ではありません。炭水化物の摂取によりインスリンの分泌が急激に増えることで、トリプトファンをはじめとするアミノ酸が大量に脳に取り込まれ、それが原因で私たちは眠くなるのです。その一方で、魚などの高たんぱく質の食事をとると、アミノ酸の一種であるチロシン値が上がります。チロシンは、エネルギーを与え、目が冴える効果のある神経伝達物質のドーパミンやノルエピネフリンの生成を促します。(出典2)このように、食事に含まれる主要栄養素の分解、そして炭水化物とたんぱく質のバランスが食後の眠気に大きく影響しているのです。
もし、重要な会議が午後に入っていたり、午後は特に仕事に集中しなければならない時は、昼食に炭水化物を多く含むパスタやサンドイッチ、麺類などではなく、バランスよくたんぱく質と炭水化物が含まれている魚定食などの食事をとるように心がけると良いでしょう。先ほどもお話したように脳内のトリプトファン値を上げる炭水化物が多く含まれる食事(玄米、雑穀、全粒粉のパスタ、玄米パスタなど)はセロトニンの分泌を促してリラックス効果をもたらすため、夜なかなか眠れなくて困っている人は夕食に食べてみてください。また、寝つきの悪い子供たちにも効果的です。(但し、食べ過ぎには注意してくださいね。)
私たちが毎日食べている食べ物は身体の神経機能や生理機能に影響を与えるので、その仕組みを理解すれば食後の眠気をコントロールすることも出来るのです。
みなさん、食べ物を賢く選んで1日を有意義に過ごすようにしましょう。
Lots of Love, Erica
(出典1): Diethelm, K. et al., “Associations between the macronutrient composition of the evening meal and average daily sleep duration in early childhood,” Journal of Clinical Nutrition, 2011, vol. 30, no. 5, pp: 640-646.
(出典2): Hildebrand, P., et al., “Effects of dietary tryptophan and phenylalanine-tyrosine depletion on phasic alertness in healthy adults – A pilot study,” Food Nutrition Research, 2015, doi: 10.3402/fnr.v59.26407
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