職場で上司や同僚からの言動に不快な思いをしたことはありませんか?アメリカでは、最大で98%の人が職場で何らかの失礼な態度をとられたことがあると報告しており、なんとそのうち半数の人はそのようなことを毎週経験しているというのです。もし、あなたが失礼な同僚に日常的に接しているとしたら、それはあなた自身をはじめ、あなたの対人姿勢や健康状態にも悪影響を及ぼしているかもしれません。
人からの失礼な態度に接したり、または目にしてしまうことは、その人の仕事ぶりや協力的姿勢、創造力に驚くほど悪影響を及ぼします。また、これがきっかけとなって、さらに好ましくない結果に導かれてしまうことにもなり得ます。新しい研究(出典1)によると、失礼な態度は人から人へ伝染するということが判ったのです。つまり、失礼な態度に接したりそのような状況を目にした人は、その「失礼」に感染することで次に触れ合う人たちにも同様の態度をとってしまうということです。また、この研究者たちは、失礼な態度は職場ですぐに広まり、そのやりとりに全く関わっていない人にまで悪影響を及ぼすことも明らかにしています。そして、この失礼な態度に感染した従業員の負のエネルギーは、職場から家庭に持ち帰られ、家族や友人にまで感染していくことになります。
また、この研究チームは、90人の大学院生を対象に3つの実験を行いました。最初の実験は、学生同士が次から次へと相手を変えて互いに交渉し合うという設定で進められます。その結果、最初の交渉相手が失礼な態度をとった場合、そのような態度を受けた人は次の交渉相手に対しても自分が受けた無礼と似た態度をとってしまう傾向があるということが明らかとなりました。さらに興味深いのは、この影響がどれだけ持続するのかということでした。この交渉は間を空けずにテンポよく行われたものもあれば、次の交渉が1週間も後になってしまったものもありました。しかし、時間はさして問題ではなかったようで、たとえ次の交渉までに一週間の時間が空いたとしても、前回失礼な態度を受けた被験者は、次の交渉相手に対しても失礼な態度をとる傾向が強まることが判りました。
二つ目の実験は、失礼な態度を目にすることがいかにその人のその後の態度に負の影響を与えるかという調査です。ここでは、一人の学生が授業に遅刻してくる設定で、実験リーダーがその学生に対し横柄な態度をとった場合と、その学生の謝罪をすんなり受け入れて授業を進めた場合の2パターンを学生に見せます。その後、全被験者に単語を羅列したリストを渡して、その中からネガティブな単語をどれだけ早く見つけるかを比較します。結果は、横柄な態度を目にしてしまった学生の方が、その光景を目にしていない学生よりも早くネガティブな単語を見つけ出すこととなったのです。
最後の実験は、顧客からのメールに対応するための返信をする前に、被験者たちにとある職場での横柄なやりとりが収録されているビデオを観せるというものです。事前にこのビデオを観た被験者は、これを観ていない被験者よりも、顧客からのメールに対して前向きな返事を書くことに苦労したそうです。
これらの研究から、感情と行動というのは、マイナス・プラスに関わらず社会的に伝染するということがよく判ります。例えば、あなたの周囲の人が幸せそうに見えるので、自分もなんだか幸せな気分になったという経験はありませんか?反対に、あなたの周りの人が腕を組んで憂鬱な顔をしていると、いつの間にか自分まで気が滅入っていて、気が付いたら同じように自分も腕を組んでいたという経験などもあるかもしれません。しかし、これらの効果は潜在意識に促される模倣であるため、これだけでは、なぜ他人の失礼な態度が私たちをさらに横柄にするのかを十分に説明してはいません。 それでは、なぜ失礼な態度は人から人へ伝染するのでしょうか?
この問いに答えるため、研究者たちは、脳の潜在意識の部分で起こるプロセスに何らかの原因があるのかどうかを調査しました。私たちは、例えば同僚との会話などを通して「社会的な刺激」を受けると、その刺激が私たちの脳の意識下にある観念を活性化させます。観念とはあらゆる心理や感情、思考のことで、怒りや幸福感、悲しみや元気、そしてもちろん、人に対する横柄さをも含みます。これらの感情は自動的に活性化され、自分たちの無意識の中で湧き上がってきます。
例えば、誰かの嬉しそうな顔を見ただけで、幸せの観念が活性化され、これにより未来に起こる出来事をより幸せとして捉えることが出来るようになります。また、「元気」に関する文章を書くことで、私たちの元気の観念は活性化されて、より強い元気を感じるようになります。「横柄」の観念についても同様で、これが活性化されれば、私たちは人や物事に対してさらに横柄になってしまうということです。失礼な態度を実際に受けたり目にしてしまった人たちは、周囲の「失礼」により敏感になったり、物事を失礼としてとらえる傾向がより強くなってしまいます。挙句、この「失礼」という観念に対する意識下での活性化が、今度は自分の態度として他人に対して表れてしまい、これが次から次へと連鎖していくこととなるのです。
例えば、あなたが道を歩いている時に、すれ違いざまに見知らぬ人から「素敵な靴ですね」と声をかけられたとします。あなたはそれを褒め言葉として受け取るでしょうか。それとも侮辱と捉えるでしょうか。これは脳が決めることなので、あなたがどう反応するかはその場面に出くわさないと分からないことですが、もしここ最近で失礼な態度を受けて嫌な思いをした経験があったりした場合、他人からの褒め言葉さえも失礼な言動として受け取ってしまう傾向が強まってしまうのです。
この効果の何が怖いかというと、失礼な言動として捉えてしまうプロセスは脳内の無意識の部分で自動的に起きるため、それを意識して止めたりコントロールしたりすることが出来ないということです。他人への失礼は体内に過度のストレスを作るため、神経毒とも言われています。科学的にも、そのストレスがどれだけ私たちの免疫力や美と健康に悪影響であるか、さらには、どれほど脳萎縮の原因となるかということが徐々に明らかになってきています。
失礼はウイルスのように広がり、仕事ぶりを悪化させるだけでなく、そのマイナスのエネルギーは他人にも伝染して社会に広まっていくということです。そう考えると、自分の置かれているコミュニティの気分を作り出している中心人物は自分なのかもしれないということです。さて、あなたは自分からどんな態度や気分を伝染させていきたいですか?
Lots of Love, Erica
(出典1)Foulk, T., et al., “Catching Rudeness Is Like Catching a Cold: The Contagion Effects of Low-Intensity Negative Behaviors,” Journal of Applied Psychology, Jun 29 , 2015, http://dx.doi.org/10.1037/apl0000037
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