交換留学生として私が初めて日本に来た時から今年で丸30年になります。残念ながら、特にこの数十年間で、若年層の食生活は劇的に変わりました。食の欧米化がさらに加速を増しており、今ではコンビニの食べ物に限らず、大量の糖分や精製された炭水化物、悪い脂肪が多く使用された加工食品が私たちの日常生活には溢れ返っています。これらの食べ物は私たちの美と健康を蝕むだけでなく、明瞭な思考力をも奪っていくということをご存知でしょうか。
今月アメリカで発表された研究(出典1)により、高糖分・高脂肪の食生活は腸内のマイクロバイオームを変容させ、認知的柔軟性を著しく低下させてしまうことが明らかになりました。「認知的柔軟性」とは、ある一つのことを考えている状態から別のことに思考を切り替える能力や、環境の変化に適応する能力の尺度で、認知的柔軟性が低いと、新しい概念を理解したり新しい環境に適応したりすることが困難になります。例えば、いつも通っている帰り道が、ある日封鎖されていたとします。認知的柔軟性が高い人は、すぐに代わりの道を見つけられるのに対して、認知的柔軟性が低い人は、なかなか新しい道を見つけることが出来ません。
この研究で、高糖分・高脂肪の食事を4週間続けた被験者は、通常の食事をした被験者より知能・体力検査の結果が低く、特に高糖分の食事は脳機能に悪影響を及ぼし、認知的柔軟性の低下だけでなく、短期的・長期的な記憶力をも低下させる原因となることが判りました。また、高糖分・高脂肪の食事をした被験者の腸内マイクロバイオームは、善玉菌より悪玉菌の割合が高く、このアンバランスが認知的柔軟性の低下に直接的に関連していることも明らかとなりました。
また、悪い脂肪と糖分を含む食品は脳に直接的な悪影響を及ぼすだけでなく、消化器官にとって有益な腸内の善玉菌を悪玉に変質させてしまうことも明確に示しています。さらに、以前発表された研究(出典2)でも、糖分と精製された炭水化物は、記憶力に影響を及ぼし、脳機能・脳構造の働きを妨げることが判っています。これらの理由により、高い糖分や精製された炭水化物(パン、ケーキ、クッキーなど)、そして悪い脂肪を私たちは日々の食事からできる限り減らしていくべきだという結論に行きつくのです。
現在、上記研究と同様の結果を示す研究が増えており、慢性的な高血糖値と認知低下は関連しているため、アルツハイマー病を3型糖尿病と捉える科学者も出てきているほどです。
さらに、また別の研究(出典3)では、炭水化物を多く摂取していた70歳以上の被験者は、そうでない被験者に比べ軽度の認識機能障害を患うリスクが約4倍高く、同様に糖分を多く摂取した場合もそのリスクが高くなることが判っています。この研究については改めてお話しすることにしましょう。
脳を明晰に保つためには、色とりどりの野菜やオリーブオイル、アボカド、ナッツ類、魚などに多く含まれる良質な脂肪、さらには、豆類や大豆製品、全粒麦にスパイス、ハーブといった食材を中心とするバランスのとれた食事を取ることを心がけてください。これを言い換えれば、糖分と精製された炭水化物、人工甘味料や悪い油(特にトランス脂肪酸や飽和脂肪酸)をなるべく控えましょうということです。和食においては、味噌や納豆、漬物や麹などの発酵食品が消化器官と脳の働きを助け、免疫力や心の健康を促進する効果を発揮してくれます。
口にするものの全てがあなたの神経や感情、精神レベルにまで働きかけ、それらは健康を促進するものにも阻害するものになりえるのです。さらなる美と健康のためにも、毎日食べ物を賢く選ぶようにしてください。
Lots of Love, Erica
(出典1)Magnusson, K.R. et al., “Relationships between diet-related changes in the gut microbiome and cognitive flexibility”, Neuroscience, August 2015, vol. 300, pp: 128-140.
(出典2)Kerti, L., et al., “Higher glucose levels associated with lower memory and reduced hippocampal microstructure,” Neurology, November 2013, vol. 81, no. 20, pp: 1746-1752.
(出典3)Roberts, R. O., et al., “Relative Intake of Macronutrients Impacts Risk of Mild Cognitive Impairment or Dementia,” Journal of Alzheimer’s Disease, 2012, vol. 32, no. 2, pp: 329-39.
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