数年前から注目され今巷で流行っているローフード(食材を極力生で摂取する食生活)を取り入れている方も多いかと思いますが、ローフードは加熱調理したものより必ずしも健康的であると言えるのでしょうか。確かに、ローフードは酵素を豊富に含み、私たちの美容と健康に大きく貢献してくれます。しかし、実際のところ、これがすべてにあてはまる訳ではありません。
ローフードを推奨する理論においては、加熱調理をすることで野菜の栄養素が破壊されてしまうため、生のまま食べるのが良いとされていますが、実は、必ずしもそうとは限らないのです。研究(出典1)において、約200人が一定の期間100%ローフード食を実践した結果、血中のビタミンAは標準値で、ベータカロテン値は比較的高くなったものの、それに反してリコピンの値が低くなったということが判明しました。ちなみに、トマトなどの赤い野菜や果物に含まれるリコピンは、様々な研究(出典2)で、ガン、脳卒中、心臓発作予防に高い関連性があると言われています。また、私たちの肌を日焼けと紫外線から守ってくれる強力な抗酸化物質でもあり、ビタミンCよりも強力な効果があると提言する研究者も多くいるほどです。
それでは、なぜローフードでリコピン値が下がったかというと、トマトは加熱することでリコピン含有量が生の状態よりも増えるといことをある研究(出典3)が明らかにしています。トマトに含まれるcisリコピン値は88℃で30分加熱すると35%も上昇するのです。これは、加熱することで野菜の硬い細胞壁が壊れることにより、その細胞壁に結合している栄養素が体内で吸収されやすくなるからです。
また、別の研究(出典4)では、加熱調理した人参はベータカロテンの含有量が高いことも判りました。ベータカロテンには非常に高い美容効果があり、リコピンのように皮膚の外層に蓄積して紫外線から表皮を守ってくれます。また、ベータカロテンを含むカロテノイドは肌にツヤを与え、潤いを保ってくれます。ただ、脂溶性のカロテノイドを吸収するためには、一緒に良質の油を摂ることが大切です。(カロテノイドについては過去の投稿をご参照下さい:http://goo.gl/6XAz96, http://goo.gl/4ngf4h)
他の多くの野菜(ほうれん草、マッシュルーム、アスパラガス、キャベツ、ピーマンなど)に関しても、加熱調理した方がカロテノイド群やフェルラ酸などの抗酸化物質がより多くなります。また、加熱調理のもう一つのメリットは、さほどのエネルギーを使わずに消化を促してくれるということです。特に、私たちの小さな歯や弱い顎、消化機能ではなかなか消化しづらいセルロース繊維などを柔らかくしてくれるのです。
ただ、ここで重要なのは調理法です。研究(出典5)によると、フィトケミカルや抗酸化物質を失わない一番の調理法は「蒸す・茹でる」です。揚げると抗酸化物質を壊してしまい、されには加齢を促進するフリーラジカルを作ってしまうので、できれば揚げることは控えましょう。
もちろん加熱調理にもデメリットはあります。熱に弱いビタミンCは加熱により効力を失ってしまいます。先に述べたトマトの研究では、2分間の加熱でビタミンC値は10%も下がり、88℃で30分加熱した場合には29%も下がってしまいました。その理由として、ビタミンCは水に溶けやすく、酸化もしやすく、その上、熱に弱いという性質が挙げられます。ただ、ビタミンCは他の野菜や果物からも比較的簡単に摂取できるため、加熱してリコピン含有量が増えるような野菜は、たとえビタミンCを少し失ってでも加熱調理して食べることをオススメします。その代わりに、オレンジやみかん、ブロッコリーやカリフラワー、ケールなどのビタミンCを多く含む野菜や果物でこれを補いましょう。
それでは、加熱調理する方が生よりも健康的だということになるのでしょうか。野菜によっては生の方が栄養価が高いものも多くあります。例えば、ブロッコリー。ブロッコリーは加熱しないと食べられないと思っている方も多いでしょう。しかし欧米では生で食べることが多いのです。研究(出典6)によると、ブロッコリーに含まれる酵素(ミロシナーゼ)は加熱により壊れてしまい、スルフォラファンが生成されなくなってしまうため、加熱することはブロッコリーの栄養分が十分に引き出すには不向きであることが判りました。このスルフォラファンは身体を守る強力な力を持ち、ガンの予防効果も期待されている栄養素です。
別の例として、人参は加熱調理をするとカロテノイド値は上がるものの、一方でポリフェノール値が下がってしまうため、どちらの調理法が良いと一概には言い切ることはできません。
一方で、ジューサーで絞った生ジュースは野菜や果物の栄養分をより吸収しやすくするとても効果的な方法です。野菜や果物をそのまま食べるよりも、ベータカロテンの吸収率が高かったという研究結果(出典7)も出ています。繊維質を取り除いたからというだけが理由ではなく、人参などの硬い野菜は、私たちの歯では噛み砕けない部分もあるため、生絞りジュースの方が抗酸化物質をより効率的に吸収することが出来るのです。
つまり、ローフードと加熱調理のどちらか一方が勝っているということはないのです。冬の寒い時期はローフードは体を冷やしてしまうので、冷え性の人は加熱調理をした食事を食べたいと思うでしょう。このように、季節や体調に応じて調理法を変えるのはとても大切なことです。また、ローフードは消化にたくさんのエネルギーを必要とするため、朝食や昼食に取り入れ、夕食では避けた方が良いという考え方もあります。冷え性の人は、朝晩を問わず生野菜はなるべく控え、温かく栄養価の高い食事を心がけるのも有効です。
結論としては、美と健康を維持するための、唯一の調理法というものは存在しないということです。バランスよく食べ、自分の必要に応じて最適な食べ方をするということこそが重要なのです。人間の体質というのは人それぞれですから、あなたの友人や国内外のセレブが実践している方法や今流行っている食事法が、必ずしもあなたにも合うとは限りません。あなた自身の身体の声に耳を傾けることが一番大切なことなのです。
ただ、野菜や果物が美と健康に素晴らしい効果をもつことには変わりありません。何より大切なことは、ローフードでも加熱調理したものでも、とにかく様々な種類の野菜や果物をたくさん摂取するということです。
Lots of Love, Erica
(出典1)Garcia, A.L., et al., “Long-term strict raw food diet is associated with favourable plasma beta-carotene and low plasma lycopene concentrations in Germans,” The British Journal of Nutrition, 2008, vol. 99, no. 6, pp: 1293–300.
(出典2.1)Karppi, J., et al., “Serum lycopene decreases the risk of stroke in men: A population-based follow-up study,” Neurology, October 2012, vol. 79, no. 15, pp: 1540-1547.
(出典2.2)Heber, D., “Colorful cancer prevention: α-carotene, lycopene, and lung cancer,” The American Journal of Clinical Nutrition, October 2000, vol. 72, no. 4, pp: 901-902.
(出典3)Dewanto, V., et al., “Thermal Processing Enhances the Nutritional Value of Tomatoes by Increasing Total Antioxidant Activity,” Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2002, vol. 50. No. 10, pp:3010-3014.
(出典4)Miglio, C., et al., “Effects of Different Cooking Methods on Nutritional and Physicochemical Characteristics of Selected Vegetables,” Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2008, vol. 56, no. 1, pp: 139-147.
(出典5)Talcott, S. T., et al., “Antioxidant Changes and Sensory Properties of Carrot Puree Processed with and without Periderm Tissue,” Journal Agriculture Food Chemistry, 2000, vol. 48, no. 4, pp: 1315-1321.
(出典6)Van Eylen, D., et al., “Kinetics of the Stability of Broccoli (Brassica oleracea Cv. Italica) Myrosinase and Isothiocyanates in Broccoli Juice during Pressure/Temperature Treatments,” Journal Agriculture Food Chemistry, 2007, vol. 55, no. 6, pp: 2163-2170.
(出典7)Kolodziejczyk, J. K., et al., “Associations of soluble fiber, whole fruits/vegetables, and juice with plasma beta- carotene concentrations in a free-living population of breast cancer survivors.” Women Health, 2012, vol. 52, no. 8, pp: 731-743.
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